鍼灸鷄肋ブログ

鍼灸に関する内容や日々の出来事を紹介します。世田谷区祖師谷「鍼灸指圧自然堂」から発信しています。

鍼灸抜萃に学ぶ その三

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恬憺虚無な生き方とは

広辞苑によると恬憺とは「心がやすらかで無欲なこと。あっさりしていて物事に執着しないさま。」とある。虚無とはニヒリズムの意もあるが、ここでは「有無相対を超越した境地」がすっきりくる。前回の「素問」上古天真論篇では次のように続く。

是以志閑而少欲、心安而不懼。形勞而不倦、気従以順。各從其欲、皆得所願。故美其食、任其服、楽其俗、高下不相慕。其民故曰朴。是以嗜欲不能勞其目。淫邪不能惑其心。愚智賢不肖不懼於物。故合於道。

心の在り方はのどかであり、欲は少なく、心が安定しているから恐れることがない。また、食を美味しく思い、衣服を心地よく感じ、習俗を楽しみ、地位の高低(貴賎)を羨むことがなく、欲望や淫らな俗説に惑わされることがない。

現状を満ち足りたものと理解し、不満を持たない考え方に老子の云う「知足」があるが、大意は同じであろう。このような心持ちで生活ができればよいのであるが、俗人にはなかなか難しい。後悔すること多し、欲望は果てしないのである。

ストレス社会と言われて久しいが、このストレス(本来はストレッサー)とうまく付き合うのがまた難しい。分かっちゃいるけど…である。ストレスというのは便利な言葉で、体調が悪くなったり、原因のハッキリしないものは「ストレスですね!」で妙に納得してしまうところがある。言われた方も生活に反省すべきことがあるからであろう。人間関係や家庭問題・職場環境・健康問題・リストラ・金銭問題・恋愛問題などなど、数え始めたらきりがないし、だいたいストレスのない生活など存在しないのである。そこで南の島でのんびり過ごしたいと逃避行を試みるも、数日過ごすと暇を持て余してしまい、却ってそれがストレスに感じたりと。人間というのは誠に我儘な生き物である。

上古の時代にこのような恬憺虚無を理想とするには、その背景があるはずである。つまり、そうではない生活がある人々の間では常態化していたと考えることもできる。草民は着の身着のまま食べるものもままならずの状態かもしれなく、為政者・官吏側と草民を同一レベルで論じることはできない。映画や小説の題材にあるように、官吏の権力闘争なども身を擦り減らすような駆け引きがあったであろう。一歩間違えれば身の危険もあるわけで、権力闘争に敗れ都落ちをし、隠遁生活を余儀なくされることもあったに違いない。しかしながら、この隠遁生活は神仙思想の影響もあり、一部の人々にとっては憧れでもあったのである。

話が散漫になってきたので、閑話休題

恬憺虚無であれば病を予防することができる

話をもとに戻すと、つまり恬憺虚無であれば病を予防できるということである。ここの段では病の原因として次のものを挙げている。

  • 諸病はみな喜怒憂思恐驚より生ず。
  • 百病は気より生ず。
  • 諸病はみな七情よりおこる。

鍼灸医学では病の原因を内因・外因・不内外因の3つに大別している。内因とは上記にある喜怒憂思悲恐驚の七つの感情である。外因とは暑邪とか寒邪などの外から影響を与えるものであり、そのほかに風邪・湿邪・燥邪・火邪などの六邪がある。不内外因とはそのほかの原因で、外傷や疲労(残業や過度のストレス、座りっぱなしや営業で歩き回ったり、パソコン業務の眼精疲労などなど)、房事過多、だらだらと過ごす(運動不足や不規則な生活)、飲食問題(過食・偏食・絶食など)のようなことをいう。

「一身を周流して以て生命をなすものは気なり。」「気血通和すれば、万病生ぜず。」とあるように人の体には気が流れていると考えられていて、上記の原因により気血の流れが滞ると病になると考えるわけである。この気の流れ、正気がしっかりしていれば、寒さやストレスにも負けずに健康を保てるわけである。例えば同じ環境にいても風邪をひく人とひかない人がいる。一般的にその原因を疲労や冷え、免疫力の低下などど説明するわけであるが、鍼灸医学では気の働きが低下して弱ったところに邪が乗じたと考えるのである。(これを説明するのは何時間もかかる内容ですので、そんなもんかいな…でサラッと流して下さい)

五行説の考え方

中国古代医学は陰陽五行思想がベースになっているので、信じる信じないはともかく概略は理解しないと古典に記載された内容の意味が分からない。簡単に説明すると、万物を「木・火・土・金・水」の5つの要素にカテゴライズするわけである。当時は最先端の思想であったため、医学だけでなく政治や経済・軍事・天文学など様々な分野に応用されたようである。その中で比較的医学は成功していると言われている。

さらに五行説には相生説と相克説という働きがある。五行相生説は下図のように「木→火→土→金→水」と循環していく考え方である。木から火が生まれ、燃えると土にかえり、地中には金属があり、金属には水が着く、水を与えると木は成長する。また、五行相克説は対立するもので、木は土に勝ち、火は金に勝ち、土は水に勝ち、金は木に勝ち、水は火に勝つという関係にある。

 

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次に前回の古典の記載を見てみると。

  • 悲しんで虚すれば、肝気乗ず。「鍼灸抜萃」
  • 思ひて脾を傷る者はその気結ぼる。「鍼灸抜萃大成」
  • 思ひて脾を傷るときはその気結ぼれ、肝気乗ず。「鍼灸重宝記」

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五行色体表の「土」の項目は五臓が「脾」五志が「思」である。「鍼灸抜萃」では「悲」になっていたが、「鍼灸抜萃大成」では「思」に修正されている。さらに「鍼灸重宝記」では、図の説明と合致する内容となっている。めでたしめでたし。

(写真:黄山)