鍼灸鷄肋ブログ

鍼灸に関する内容や日々の出来事を紹介します。世田谷区祖師谷「鍼灸指圧自然堂」から発信しています。

鍼灸抜萃に学ぶ その七

鍼術の手法(1/4)

鍼具・灸具にはさまざまなものがあるが、「鍼灸抜萃」で紹介されている鍼術(江戸前期頃に一般的に用いられた)には、撚鍼・打鍼・管鍼・砭鍼の4種類がある。管鍼法と打鍼法は日本独自の鍼術である。

撚鍼(ひねりばり)手法

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鍼を行わんと欲する者は先ず四知を定むべきなり。さて、我が志を正しうして病人に心を付け、念を鍼に移し、目を外に見ることなく、人とものいわず。腹に行うときは先ず左の足を敷き、右の足を立て、鍼先を口に含み、左の手にて病人の腹を窺ひ見て穴を得るなり。その鍼せんと思う穴をまず左の大指そとはら爪の角にて五六呼程その穴をおす。

まず、鍼術の心構えが記されている。集中力とイメージは臨床上重要な要素であるが、文献だけ読んでいては分からない部分である。本来は秘伝口伝の類であろう。「補瀉迎隨之事」には補の時に「五帝上眞六甲玄霊氣付至陰百邪閉理」と三篇念じ、瀉の時に「帝扶天形護命成霊」と誦すること三遍とある。やっぱり道教勉強しないと、ですかね…。
鍼先を口に含むは衛生上問題があるが、温めた鍼は切皮痛を軽減できるかもしれない。金の長鍼をなめし皮で擦り刺入する方法もある。温熱効果を期待するのであれば、口に含んだだけではさして温度が高くならないので、灸頭鍼や火鍼などの方が現実的である。

金鍼部曰く、爪を以てその穴按重して、これを切るとあり。さて、中指大指を合せて穴の上に置く。右の肘を膝にのせて鍼を以て穴にあて、左の中指にて鍼口を推え、食指大指を以て軽く撚り下す。急に撚る急に下せば痛み忍びがたし。呼に随ひて左右の食指大指にて和かに押し下せ。ここに補瀉迎隨温涼寒熱の刺しようあり。

金鍼部とは「金鍼賦」のこと。徐鳳「鍼灸大全」(1439年頃)に収録されている。調気法や複式補瀉法などの操作法について書かれている。「且夫下針之先、須爪按重而切之、次令咳嗽一聲、隨咳下針」それ鍼を下すにはまず、爪で按重してこれを切る、次に咳を一回させて、咳に随い鍼を刺すとある。呼吸を誘導して刺入するのも痛くなく刺すコツである。温涼寒熱の刺しようとは、透天涼と焼山火のことであろうか。操作法は文章を読んだだけでは習得が困難なので、どのあたりまで理解できていたのであろうか。

「中指大指を合せて穴の上に置く」は臨床的にはしっくりくるが、学校のテストでは失格である。「食指大指を合せて穴の上に置く」としなくてはならない。

経に曰く、刺して留むること春夏は二十四息。秋冬は三十六息にして鍼を出すと有り。然れども元気衰えたる人には五六呼にて鍼を出しめ能(よ)きぞ。鍼のぬきようは、先ず少し出しさて持ちなおして引き離す。中指にて鍼の口を推しもむ。これを鍼口を閉じると云う。鍼を出すこと、急に手麁(あら)なれば鍼口より血出るぞ。これ営衛を破るなり。
七十一難に曰く、栄をささば衛をやぶることなかれ。衛を刺さば栄をやぶることなかれとなり。血は営衛の主たり。血出は何度も閉じよ。
醫経曰く、鍼を出だすこと謾(みだり)に出すべからず。三四次徐々と轉じて出せば血いでずしてよきぞ。みだりに出すときは必ず血をみるとあり。
凡そ肥人には鍼刺すことも深く、痩人には浅く刺すなり。大人には鍼も大、小児には細きを用ゆ。初めて鍼をまなぶ人は先ず我が腹に刺して鍼のととり様子を能(よく)拭みさて、他人に用ゆべきなり。

鍼の刺入から抜鍼、前揉・後揉法、出血の注意、体格・年齢・季節の違いによる操作や鍼の選択、練習法などについて書かれている。教科書だったら10頁ぐらいの内容をこれだけの文字数でまとめられると、行間を読むのが大変である。
経に曰くの経は内経かと思っていたが、「鍼経摘英集」であろう。七十一難は「難経」、醫経は「医経小学」と目を通している文献も少なくない。

金鍼は最上なり、何病にも効速し。 銀鍼は鈍し。鐵鍼は悪し。殊に久しく用ゆれば、肉の内にて折れるものぞ。鐵鍼を用ゆること勿れ。

菅沼周桂は鉄鍼を用いたとあるが、やはり鉄は折鍼の可能性がある。まだステンレスのない時代のことである。金鍼は見た目の華やかさだけでなく、刺入感覚も柔らかく、温かい感じがある。弘法筆を選ばずと言うが、本当は弘法も筆を選んだという説もある。やはり、いい道具はよいのである。

(引用は一部変更)