レジリエンスに関する覚書|いかにしてレジリエンスを高めることができるのか
パーソナルな問題だけでなく、システムやコミュニティ、環境問題など幅広い分野で最近語られている一つの概念に「レジリエンス(resilience)」がある。その語源はストレス(stress)と同じく、もともとは物理学(力学)用語である。ストレスを生じさせる歪みの要因をストレッサーと呼ぶが、レジリエンスはそのストレッサーに抗して復元する力、回復力のことを指す。
アンドリュー・ゾッリ(Andrew Zolli)によると、レジリエンスを「システム、企業、個人が極度の状況変化に直面したとき、基本的な目的と健全性を維持する能力」と定義している。また、ボナーノ (Bonanno,George A.) は「極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力」(2004)と定義した。
昨今、各媒体に於ける見出しでよく目にするようになった「折れない心」や「抵抗力」、「回復力」などもこのあたりがネタになっているのではないだろうか。。
その先駆けともなったレポートに、ワーナーとスミスのカウアイ研究(RESILIENCE AND RECOVERY: FINDINGS FROM THE KAUAI LONGITUDINAL STUDY)がある。ハワイのカウアイ島に暮らすハイリスク児を1955年から40年に渡り追跡調査を行い、その逆境を克服するための要因として次の3つの内容が報告がされた。
- 個人の保護要因
遺伝や環境に依るところも大きいが、陽気で親しみのある社交的で温和な性格。 - 家族の保護要因
親身になってくれる少なくとも1人の有能で、情緒的に安定した人の存在。 - コミュニティーの保護要因
コミュニティーで相談に乗ってくれる教師、隣人、年上のメンター、少年の親、あるいは教会グループのガールフレンド、青年リーダーなどの存在。
また、2歳頃までの両親や保護者との関わり、人間関係の大切さについても指摘されている。「レジリエンス 復活力」(アンドリュー・ゾッリ)によると、個人のレジリエンスについての最新の研究として次のように紹介されている。
心理的レジリエンスはかつて考えられていたよりも幅広く存在し、向上させることも学習することもできるという。なぜなら、個人のレジリエンスは信念や価値観、性格、経験、嗜好、遺伝子のみならず、「思考の習慣」にも深く根ざしているからだ。つまり、成長させ、変化させることが可能な習慣なのである。(p20)
心理学や精神医学分野では、PTSDとレジリエンスの関係、精神疾患に対する抵抗力について注目されてきた。あるアメリカのレポートでは、50~60%の人々が生涯なんらかの外傷的体験に曝されるが、実際にPTSDになる確率は10~20パーセントであるとされている。PTSDを発症してしまったグループと健康を維持できたグループとの差は何か、その鍵がレジリエンスということである。極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる、その能力が高いということが、よりレジリエントな人ということである。
疾病に対するレジリエンスを考えると、まず、病気になりにくい、たとえ病気になっても快復が早いということができる。
例えば、衛生環境の良くない地域で、同じものを食べてもお腹を壊す人もいれば何でもない人もいる。仕事が多忙で睡眠時間が少なくなると、胃腸障害になったり、自律神経のバランスが崩れてしまうなどなど。また、怪我により再起不能といわれたスポーツ選手が、積極的にリハビリを行いカムバックしたり、大事故で生死を彷徨いながらも、驚異的な快復を見ることもある。ひと昔前なら、免疫力とか精神力ということだろうか。
個人のレジリエンスを考える上で、その要因は多岐にわたるので、なかなか特定的に断定することは難しい。「レジリエンス 復活力」では、自己回復力として、楽天的であるとか、自信家であるといった生まれながらの性格的特徴は、人生のストレス要因に対して優れた防御効果を発揮するとしている。また、自分の感情を意図的にコントロールし、レジリエンスを高める方法としてマインドフルネス瞑想を紹介している。マインドフルネスも最近のトレンドである。
レジリエンス 復活力--あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か
- 作者: アンドリュー・ゾッリ,アン・マリー・ヒーリー,須川綾子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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