旬をいただく|鯛の秘伝の穴(つぼ)はどこにあるのか
先日、テレビの料理番組を見ていたら、旬の食材の話になった。なんでも卵にも旬があるらしい。これは初耳である。親鶏が新緑の葉っぱを啄ばみ、生命のエネルギーをたくさん吸収することで春の卵は栄養価が高いというような理由だったように記憶している。妙に納得してしまったのだが、ネットで調べてみると冬から春にかけては、比較的長い期間母体の内で卵が成熟されるとか、寒い季節や暑い時期は栄養がよく卵まで行きわたらないが、過ごしやすい春は食欲も旺盛になり栄養が多く卵に含まれるなど幾つかの説明が見られた。また、旬があるのは有精卵だけであり、無精卵は年間を通して安定した品質に保たれているらしい。
旬にはその食材の美味しい時期と収穫量が多いという二つの意味がある。魚介類の中には必ずしも旬の季節が美味しいとは限らないものもあるが、野菜類などは概ね栄養価も高く、お財布にもやさしいのではないだろうか。旬のものを食べるのは体に良いといわれるのもこのような理由によるのであろう。
マダイも春が旬である。桜の季節に釣れることから桜鯛と呼ばれることもある。のっこみのこの時期はマダイが産卵のために浅場に移動し、エサをよく食べるので数が釣れることが多い。それは釣り人にとって、正に春の訪れを告げる魚なのである。
これだけだと単なる世間話で終わってしまうので、少々蘊蓄を。
1692年に書かれた食物本草書『本朝食鑑』にはさまざまな食物が品目ごとに分類され、解説が加えられている。鯛の項目を見てみよう。
【気味】甘温。無毒。
【主治】煮て食べても、炙いて食べてもともに能く人体を益し、五臓を補い、腹中を温め、気血を滋す。常食すると、顔色をよくし、人の寿(よわい)を延ばし、肝腎を潤し、腸胃を調え、久洩虚痢を治し、水気腫満によい。…
【発明】鯛は「陰中の陽」である。足の太陰・厥陰・少陰に入って気を益し血を補うが、多食すると、火を動かし熱を生じるのである。
気血の流れを良くし、肝腎脾胃を補う温補の働きがある。その上、寿命が延びるとくればいいことずくめである。食べ過ぎは内熱を生じるといったところが注意点であろうか 。
また、この本で興味深いのは、次の一文にある。
…泉洲・摂洲の海人は米穀を海西に運んで壱岐・対馬・日向・薩摩の市に販ぎ、帰港時には生鯛数百を買い、大鍼を魚の背に刺すが、皆深く秘してその穴(つぼ)を言わない。そして、生きたのを大竹藍に入れて舷(ふなばた)に繫け、海水に浸して持ち帰る。こうすると、魚は水中で活発に動き、死なないのである。
以前、鯛に針を刺して鮮度を保つ方法が特許申請されたようにも思うが、この時代に同じようなことが行われていたということは面白い。
その秘伝の穴とはどこなのであろうか。