鍼灸鷄肋ブログ

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鍼を横に刺すということ|経絡、経筋、それともファシア。。

先日、講義の準備のため資料を整理していて考えた。もし、疼痛や筋の緊張緩和に対して、直刺に比べて横刺(水平刺)の方が治療効果が高いとすれば、それはファシアのリリースという説明ができるのではないかと。

1.鍼には様々な形状のものがある

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前漢の頃に編纂されたとされる鍼灸医学の古典『黄帝内経』には、すでに九鍼(九種類の鍼)が紹介されている。当然のことながら、道具というものは本来目的があって作製されるものである。上記の写真は現代版鍼具であるが、さまざまな形状、太さ、長さのものがある。

『霊枢』九鍼十二原第一

八曰長鍼、長七寸、長鍼者、鋒利身薄、可以取遠痺

八に曰く長鍼、長さ七寸、長鍼なる者は、鋒は鋭く身は薄い、以て遠痺を取るべし。

長い鍼ということは深く刺すと即座に考えがちであるが、ここでいう遠痺とは「遠くの」という意味ではなく、日数の経ったものと解釈される。学生の頃、上古は外国であるので、現代の感覚で考えては理解できないとよくいわれたものである。この文面だけではどのように使用したのか判断できない。

さらに、『霊枢』九鍼論第七十八には「主取深邪遠痺者也」と記載があるので、ここで初めて深いところの痺症に対して使用していたと読むことができる。恐らく、臀部や腰部などのインナーマッスルや骨に当るまで刺入していたのではと想像される。しかし、これも実際を見ていないので、仮説の域を出るものではない。

2.横刺についての文献

黄帝内経』には鍼の手技についての記載があるものの、具体的な使用法についてははっきりと書かれていない。呉昆の『針方六集』(1618年)や『循経考穴編』(清、作者不詳)などに竇太師の鍼法として、ようやく散見されるようになる。

『針方六集』

列缺 刺入一分、沿皮向前一寸半、透大淵穴
偏歴 針入一分、沿皮向前一寸半、透列缺穴
頰車 針入一分、沿皮透地倉穴。左病治右、右病治左
攅竹 針入一分、沿皮透魚際穴
肺兪 針入一分、沿皮向外一寸半
膈兪 針入一分、沿皮向外一寸半
風池 針入七分、或横刺三寸半
百會 針入二分、前病者沿皮向前一寸、後病者沿皮向後一寸、左右如法  

 

『循径考穴編』

列缺 臥針沿皮向下、透太淵
偏歴 刺入一分、沿皮向外一寸
頰車 凌氏、刺一分、沿皮向下透地倉
三里 可平針二寸五分
豊隆 平針二寸五分 攅竹刺入一分、沿皮向下透睛明
肺兪 刺入一分、沿皮向外一寸五分
膈兪 刺入一分、沿皮向外一寸五分
飛陽 平針入二寸五分
風池 刺一寸五分、左透右、右透左
百會 刺一分、沿皮向後三分  

鍼灸では経絡や経穴、気血などの概念で病因病機や治療について説明がされる。江戸時代の鍼医、坂井豊作は『鍼術秘要』の中で横刺の有用性について次のように述べている。

「余が鍼術は直刺を好まず、横刺を善とす、何となれば、直刺は仮令、鍼の竜頭まで肉中に入るといえども、病経を通過すること一、二分に過ぎざるのみ、是を以つて其の効を取ること甚だ少し、横刺にするときは鍼の鉾より竜頭まで悉く病経に中る、故に直刺に比すれば其の効十倍すればなり」

坂井の治療法は独特なものであるが、鍼と経絡の関係を線的、面的に捉えているところが面白い。これは視点を変えると、重積したファシアに対して、横刺の方が直刺よりも広い表面積で接触、作用することができると考えることができるのではないだろうか。

坂井豊作については、以前まとめたので興味のある方はこちらをご覧いただきたい。


鍼術秘要頌|鍼灸指圧自然堂