経筋についての雑感 (上)|なぜ、経筋篇では燔鍼(火針)を使用したのか。
2月のこの時期は鍼灸学校の三年生にとってはまさに受験シーズン真っ只中である。おそらく、経脉や経穴についてはすでに諳んじてスラスラと口をついて出てくるほどになっているに違いない。しかし、本テーマである経筋についてはそのようなものがあるといった程度の扱いではないだろうか。
経筋とは「漢方用語大辞典」(燎原)によると以下のように説明されている。
人体の諸筋も十二経脈のように十二の部分よりなる。十二経筋ともいう。筋は節に会するので経筋のめぐる所は、多くは経脈と同じであるが、その最も多いところ は四肢の谷間である。十二経筋は四肢の関節と関係がある。主に関節運動を主る。その病変は、痺痛、拘攣などの運動障害の病症をあらわす。
近年、しばしば経筋について話題になることがあるが、どうもその説明がしっくりこない。第一に、はたして経絡系統というシステムの中で経脉と経筋を使い分けていたのかどうか。第二に、毫鍼ではなく燔鍼(火針)を使用した理由についてである。毫鍼で恢刺や分刺、合谷刺をしたり、五輸穴を利用するもの、温熱を与える方法などが紹介されてはいるが、火鍼についてはあまり触れられていない。第三には「以痛為輸」の意味についてである。圧痛点と説明するものもあるが、押して痛むとはどこにも書いていない。「霊枢」経筋篇に繰り返し記載されている「治在燔鍼劫刺、以知為数、以痛為輸」が一つのキーワードとなる。
まずは、この部分について「黄帝内経霊枢上巻」(東洋学術出版)の解説をみておこう。
燔鍼劫刺:燔鍼は鍼尖部を真っ赤に焼く火鍼である。劫刺は速刺速抜する刺法。
以知為数:「知」とは効果を認めること。「数」とは刺鍼数の限度を指す。
以痛為輸:患部の痛点を腧穴とすることで、後世の阿是穴や天応穴のことである。
経絡とは東洋医学、とりわけ鍼灸にとっては重要な理論体系の一つであり、システムである。そして、先の経脉と絡脉を合わせて経絡と一般的に呼んでいる。書籍ににより若干の違いはあるが経絡系統は下記のように分類されている。
【経絡】
◎経脉
- 十二経脉
- 奇経八脉
- 経別
◎絡脉
- 十五絡脉
- 孫絡
- 浮絡
◎その他
- 十二経筋
- 十二皮部
次に、「太素」からその目次を見ておこう。ここで経筋が身度に分類されているところは興味深い。そもそも、上記のように経絡系統システムとして認識されるようになったのはいつごろからであろうか。
「霊枢」の中では経筋篇以外の篇で経筋の文字を見ることはできない。本来であれば、仮に幾つかのシステムが存在するのであれば、どのような基準でそれらを選択するかということが議論されていてもおかしくないのではないだろうか。
経絡系統システムを使い分けていたという視点で本文を読むと随所にそれらしき記述を見つけることができるかもしれない。しかし、それはすでにバイアスがかかっていることを認識しなければならない。
第八 経脈之一
経脈病解、陽明脈解第九 経脈之二
経脈正別、脈行同異、経絡別異、十五絡脈、経脈皮部第十 経脈之三
督脈、帯脈、陰陽蹻脈、任脈、衝脈、陰陽維脈、経脈標本、経脈根結第十三 身度
経筋、骨度、腸度、脈度
(つづく)